佐々木敏彦
五反田の家
里山の現代農家
木造+Sにて補強
施工 松井住宅
愛知県旧足助町の里山に建つ現代農家である。梁間3間×桁行9間のワンルームの母家と、1間×5間の水場棟を渡り廊下でつないだシンプルな構成である。
母家は、里山生活のアクティビティを確保する為、台所・薪ストーブスペースを内包した広めの通り土間空間を中央部に、両端部に各室を配置した。広めの通り土間は、気楽な人の出入りを保障し、天気の悪い日でも快適な室内作業空間にしたいという思いを具現化したものである。当然のことながら土間を介して表・裏庭へのアクセスも容易になる。
梁間3間の小屋組みは、木とスチールのハイブリッドとした。水平材をなくし、大断面の材料を使用せず、室内空間が柔らかく包まれる印象を持った、軽快な無柱空間を目的としたものである。安価で入手し易い材料選定にも留意し、地域の杉、桧を多用し、天井は登り梁間に配した断熱材を、麻布で押さえ込むことで柔らかな表情をつくることができた。
離れの水場棟には、施主自身の手による五右衛門風呂が用意され、里山暮らしのシンボルとなっている。
計画の要旨は上記の通りだが、本プロジェクトの特筆すべき点は建設プロセスにある。
施主のTさんは、サラリーマン時代から農的暮らしを構想し、週末を使って米づくりを実践してきた。退職を期に、予定通り都市生活に区切りをつけ里山への移住を果たすことになるが、Tさんは全ての建設行為に大工手元として参加している。建設行為が楽しいことは、皆が周知の事実であるが、それは「気ままなDIY」を前提としていることがほとんどである。Tさんは設計監理者、現場監督の下、より厳密で精度の高い現場に身をおいた。気ままなDIYより、はるかに高度な楽しみを享受したとも言える。ご本人にとっては、さながら建築学校といった時間を過ごすことになったことだろう。設計者として住宅建設に新たな可能性を見出すとともに、工事請負とともに建築学校を併設していただいた施工業者に感謝の思いでいっぱいである。