佐々木敏彦
尾張瀬戸の家
木工室を持つ作る人の家(木造)
施工 上杉建築+MP・Sasatani
施主のYさんは長年木工を趣味としている。土木の技術者でもありデザインに対しての造詣も深い。Yさんがこの土地を見つけてきたときのはなしが印象深い。「駅から徒歩圏内で便利な場所ですけど、このエリアは準防火地域に組み込まれてないんです。」と言われた。肌触りのよい自由な材料選択を前提とした家づくりを考え、長年構想・検討されていたことが容易に想像できた。
建築の素材は建て主の意に反して、資本や過剰な制度によって見えにくいところでコントロールされているともいえる。それら法律や制度は合理性や大義名分を持っているように見えてその実、生活実態とはかけ離れていることも多い。身近で安価な材料、自分が好きな素朴を住まいに持ち込みむには事前の対策・準備が必要である。
具体的なYさんの要望で特徴的なもののいくつかは次のようなものである。
・狭くても良いので木工室が欲しい。
・素朴で手近な天然素材を使いたい。
・建具は既成のアルミサッシュでなく、できれば製作木製建具としたい。
・土地に以前建っていた古家の古建具を可能な限り再利用したい。
・自分たちで可能なことは建設作業に参加したい。
・予算の中でできない部分は住みながらすこしづつ仕上げていきたい。
などなど。私にとっては何のストレスもない要望ばかりで、すんなりスタートラインに立てたことは言うまでもない。
Yさん夫妻には二人の小さい娘さんがいるが、「まだ個室としてのこども部屋は必要ありません。のちのち考えますので。」ということ、また薪ストーブは当初から設置予定であったこともあり、寝室と、客間にも使えるリビング続きの畳小部屋、木工室以外はオープンプランの構えとした。一階中央部を吹き抜けとし、二階はその廻りを広めの回廊と部屋が取り囲むシンプルなプランである。踏み天井を採用することで階高を押さえ、上下階の関係は手が届きそうなくらい近い関係にある。中央には採光と夏場の通風をねらったトップライトが配した構成となっている。
久しぶりにお邪魔すると、二階から丸柱つたいに少し大きくなった娘さんがお猿さんよろしくスルスルと降りてきた。二階広めの回廊は施主のDIYでつくられたテーブルや家具が配置され、それぞれ十分使いこなされている。当初一階は土足を想定して構想したが、現時点では上足使用となっている。無垢材の床がきれいすぎてまだ思いきれずにいるとのこと。住まいは時間と共に変化していくもの、それはそれでOKだ。