佐々木敏彦
蜜柑山の家
多機能デッキを持つスキップフロアの家
木造
施工 水野工務店
市内の良好な住宅地である。敷地は、南西の角地で北側にすぼまる形の変形敷地。約40坪の敷地だが、建蔽率40%容積率100%、北側斜線も厳しく外壁は境界から1mのセットバックという厳しい建築条件である。だからこそ緑溢れる良好な周辺環境が維持されているともいえる。施主も私も大局的な視点を持ってこの計画に望む必要がある。
南側隣地は平屋建なことに加え、敷地はやや高台に位置するため、視線を少し上げれば、2階からのみならず、1階の眺めも大きく変わってくる。厳しい北側斜線も考慮したうえで、平地ではあるが南側メインルームを地上からやや持ち上げ、スキップフロアとすることで、上下への視線の抜けを確保し、内部空間の広がりを最大限となるよう計画した。結果、外部パッケージは平面的にも、立体的にもほとんど法律のラインに沿う形の構えとした。
コンパクトハウスの場合、それぞれの部屋が縮小コピーされたようなプランを良く見かける。結果、貧弱な玄関スペースが生まれ、圧迫感のある水廻りが計画される。何かを犠牲にして何かを手に入れるのは設計の常套手段とはいえ、コビトが住むわけではない。物理的大きさには限界というものがある。台所廻りは打ち合わせを重ね、慎重に厳しく寸法確保しながらも、此処では各スペースが持つ役割を機能的に重ね合わせることを試みた。
最大のポイントは、居間・ダイニングにつづく南側縁側とでもいうべき多機能デッキにある。地面より少々高いウッドデッキの道路側を張壁で囲い、その壁に外玄関を設けた。ウッドデッキの室内外はフルオープンできる木製建具を配し、特殊なディテールを考えることで内外に一切の段差もなくした。結果、この場所は、玄関ポーチ・玄関室でもあり、自転車置き場でもあり、あるときは外部の居間となる多機能な場所となった。また、外玄関までは、外壁後退1mの規制部分利用して、東側通りに沿ったアプローチスロープを施したことで、コンパクトな敷地にあっても、奥行き感と高揚感のあるアプローチをつくることができた。
この土地を若夫婦に譲った親御さんが、「こんな住いができるのなら私たちが住めばよかった。」という声を聞いて施主といっしょにニンマリした次第である。